江藤 淳先生は、「文藝春秋」の1998年1月号で、「日本第2の敗戦」という評論をされた。だが、日本は「第2の敗戦」の戦後処理も、国内の既得権益のしがらみによって、ままならないのが、悲しい現実である。世界が日本に「時間を無限に」与えてくれるのなら、日本のかすかな自己復元力に期待するのも消極的消去法の答えの1つかもしれない。
 そんな日本の国内事情にはお構いなしに、世界は動いている。世界は日本を待ってはくれないのだ。今や、日本は「第3の敗戦」の崖っぷちに立たされているのである。
 アメリカでは8年ぶりに民主党から共和党への政権交代が実現した。「経済がこれほど好調なときに、ゴア副大統領が接戦に持ち込まれたことが、2000年の大統領選挙の特色だ」とジェラルド・カーティス教授は今回の選挙を総括された。ここにある種のアメリカの異常性が秘められているのである。裏を返せば、共和党の鬼気迫る怨念あるいは、政権奪回への執念が読みとれるのである。共和党は1996年の大統領戦で、ドール大統領候補と「金本位論者」のケンプ副大統領候補の組み合わせで戦ったが、クリントン大統領の再選を阻止できなかった。共和党はクリントンの「国民に人気のある共和党の政策の横取り戦術」に、なすすべがなかった。共和党は2000年の大統領戦に向けて、総力戦の布陣をしいた。4年間かけて21世紀の第1・四半期つまり2025年までは、共和党の「世界戦略シナリオ」で、世界を仕切れるようなダイナミックな「グランド・ストラテジー」を練り上げていたのである。
 この「グランド・ストラテジー」は、2000年大統領選挙向けの「思いつき戦略」ではない。共和党のニクソン大統領以来の、「共和党理念」の再確認と再構築であり、ルーズベルト大統領の「ニューディール理念」へのアンティテーゼの色彩が濃厚である。それは「他者に依存」するより「自己責任」「自己努力」する人間の生き方の方が、「はるかに人間の尊厳」を尊ぶ価値観であるとの共和党からの問題提起であり、これはアイン・ランド女史の提唱した「リバタリアン」精神とも価値観を共有するものである。
 共和党のこの問題提起は、アメリカ国内に向けられているばかりではなく、世界の同盟国及び非同盟国にも強いメッセージを発しているのである。これを受け止め損ねた国家はアメリカと軋轢を繰り返し、やがては「市場メカニズム」によって、市場から排除される運命が待ち構えているかもしれない。
 共和党の「グランド・ストラテジー」の骨格は、1970年代初頭のニクソン大統領の諮問への答申「ウィリアムズ・レポート」と、1980年代初頭のレーガン大統領の諮問への答申『金委員会報告書』である。この2人の大統領の強烈な「人間への価値観」(共産主義は非人間的である)が、バック・ボーンとなっているのだ。
 冷戦に勝利したアメリカは、「第2次世界大戦」と「東西冷戦」という世界規模の大戦に2連勝した「唯一超大国」である。それまでアメリカは、アメリカ資源の最優秀部分をこれらの戦争勝利の目的に没入していた。が、冷戦崩壊によりアメリカはこうしたくびきから全面的に開放された。その結果が1990年代の「独り勝ち経済」の達成である。だが、忘れてならないのは、「ワシントン・リヤド密約」による石油価格の長期の「低位安定」であり、石油の安定は「独り勝ち経済」に必要不可欠な条件であった。IT革命のみに目線を奪われ、「石油」に戦略的配慮がされていない視点からの経済予測は、不安定なものとなるだろう。湾岸戦争で王政存続の危機に見舞われ、そして短期間にこの窮地から解放されたサウジアラビアは、共和党のブッシュ大統領には感謝と恩義を感じているが、民主党に対しては、もとより義理立てする筋合いではない。ここが石油問題を解くキーワードである。この点が2000年の選挙期間中の石油価格動向の戦略的背景である。
 21世紀のアメリカの「第2次パクスアメリカーナ覇権構想」は、「石油」「ドル」「金」支配による「金融政覇による市場コントロール型覇権国家」が想定されているのである。
 「ニクソン・ショック」は、アメリカの戦略的後退であり、1960年代を超える「独り勝ち経済」の再現が秘められていたのである。日本はこの点を理解できず、また見ぬけなかったのである。農耕民族特有の「連続思考」から脱却できなかった。第2次世界大戦の敗戦でも、また「プラザ合意」前後からの対日金融戦争でも再び敗北した。日本民族は自分が負けても根本的自己の弱点に「メス」を入れないで、状況的対処で乗り切ろうとしてきた。クリントン政権への日本の対応は、典型的にこの手法であった。共和党は「まず原則ありき」で、新しい対日政策原理・原則が前面に出てくるので、「玉虫色時間稼ぎ」戦法では全く歯が立たないであろう。
 そこで本書では、「ニクソン・ショック」から始まる「独り勝ち経済」の達成へのアメリカの対内、対外戦略の分析と、「独り勝ち経済」再現後の「独り勝ち経済の永続化」と「経常赤字4000億ドル対策」としての「金本位制復帰大戦略」の解明を、私の編み出した「仮説的近未来予測法」を駆使して試みたものである。
 本書は多くの諸先生、先輩、友人、知人、後輩の心温まる精神的および物理的なサポートにより日の目を見ることができた。真心をこめて感謝を申し上げたい。
 ワールド・ゴールド・カウンシル、田中貴金属工業株式会社、天利義一、有澤沙徒志、亀井幸一郎、田島弘一、久恒正嗣、小野田明広、松崎延寿、吉田弘毅、西山昇、平林喜男、高橋芳徳、芹澤ゆう、谷口智彦、沢井智裕、奥山忠信、一柳良雄、松田 学の方々からは、本書の基礎的資料のデータに関して多大のご協力を頂いた。衷心より感謝を申し上げたい。ただし、その資料の解釈、評価および意見、主張はすべて著者の判断と責任であることは申し上げるまでもない。
 本書はブッシュ・テキサス州知事の「大統領当選」決定以後、廣済堂出版の中 博社長のご決断により「緊急出版」となった。中 博社長、鶴巻 亨第1編集部長、編集担当の茅島葉子様には、大変お力添えを頂いた。本当に有難うございました。
 母、高橋加奈江には、コピーとりから健康管理までいつものことながら大変世話になった。その献身的な協力に対して、ささやかではあるが私の感謝の気持ちとして、本書を捧げたい。
 
 
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