一志会 2010年10月に発足した限定メンバーによる
新しい形のコミュニティ
「一志会」第90回の例会(講師:室瀬 和美氏 漆芸家 重要無形文化財「蒔絵」保持者(人間国宝) )が開催されました。
2025.11.27 更新
第90 回一志会例会 レポート 2025年11月26 日

一志会は、「公の精神」のもとに積極的に社会的責任を果たそうとの想いを共有する企業経営幹部の「コミュニティー」です。11月26日(木)に、第90回例会を開催しました。
今回は室瀬和美氏(漆芸家、重要無形文化財「蒔絵」保持者(人間国宝))から、「本物の価値」と題したご講話をいただきました。
まず先日ルイ・ヴィトンの創業家に呼ばれてパリに行かれた際に感じた、彼らの日本の伝統工芸への関心や知識の深さは想像以上だったと話されました。中国で育つ漆を使った蒔絵は、16世紀にヨーロッパに渡り、ヨーロッパ中の貴族が欲しがるほどの人気となっていたとのことです。

近年中国や日本で7,000年前の漆の弓や櫛が出土しており、天然樹脂でありながら漆という素材が、土中に埋まっている限り腐らないという、特殊な塗料であることを示しているとのことでした。また東大寺正倉院の宝物の9割は日本で作られた工芸品であり、1300年前から日本の美の顔は工芸であった。さらにその工芸技術を現代まで維持したのも日本だけだったとのことでした。これは20年おきに行われた伊勢神宮の式年遷宮において1,500点のご神宝・ご装束が全て新しくされたことで、技術が伝承されたとのことでした。
次に三島大社の梅蒔絵手箱から文化庁や世界の博物館等に所蔵されている作品、壁画、漆椀など室瀬氏の作品のご紹介をいただきました。
最後に日本の伝統工芸文化は、共同で物を作ることで、次の世代に価値観と技術を伝えてきたことと、芸術は美の実現のために技術を極める人間の欲望の成果であることを話され、日本の企業経営者にも、日本の伝統工芸の要素をとりいれることで、是非日本の隠れた財産を利用してほしいとのメッセージをいただきました。

続いた質疑応答では、日本のクオリティを活かし差別化していくことや、伝統は引き継ぐことではなく、作ることが大事であり、創造性を失ったら消えること、日本の価値を海外に発信するためには、先人の最初の価値観を大事にすることを語られました。

この後、テーブルでの歓談タイムを経て、加藤貴治セガサミーホールディングス㈱上席執行役員より「ゲーミング事業」について、会員卓話をいただきました。
次に会員近況報告では、吉岡・アスクル代表取締役社長、中間・ラック常務執行役員、石井・石井鉄工所代表取締役社長、神野・サーラコーポレーション代表取締役社長、からお話をいただきました。

会員近況報告後は会場の至る所で会員間歓談の輪ができ、ビジネスの話や経営課題について語り合うなど、にぎやかに談笑が続く中、次回例会での再会を約して、閉会となりました。

終了後に会員の皆様から多くの感想が寄せられました。
「見えないコトに意味があり、その意味を深く認識してコトに繋いでいく日本(人)の精神性を大切にしたい。」「技術の伝承の一方、創造の必要性。伝統は「創る」もの。」「ルイ・ヴィトン家が日本文化・工芸を徹底研究している事が印象に残った」「日本は価格で勝負ではなく品質で勝負すべき。伝統工芸の要素をどう取り入れていくかが問題。」「日本の工芸技術は、世界一だと人間国宝の方から言われると説得力がありました。伝承の力と知恵が、日本の手仕事を工業立国に導いたパワーだと感じました。」「価値観がブランドになるというお話は、当社を例として考えても納得感のあるものでした。日本人が自分たちの文化の価値をきちんと理解し、守っていくために何が必要か、考えさせられました。飛鳥III、ぜひ室瀬様の作品を拝見しに乗船したいと思います。」「今回の一志会は、私にとって神回でした。室瀬先生の日本が次世代に残すものをどうつなぐかのお話、セガサミー様のグローバルな豪華カジノのお話、さらにタイムリーな会員近況報告など、まさしく一志会ならではの鳥肌が立つラインナップで、興奮冷めやらず。しばらく眠れないほどの刺激でした。」
*室瀬氏経歴
1950年東京生まれ。漆芸家だった父・春二の影響を受け、同じ道を志す。
人間国宝の故・松田権六、故・田口善国両氏に師事、
1976年東京藝術大学大学院美術研究科(漆芸専攻)修了。
在学中より開始した創作活動と共に漆工文化財の保存活動も行い、漆の素晴らしさと
蒔絵の美を伝えるべく、国内のみならず海外への出展、講演活動も積極的に行う。
日本伝統工芸展にて東京都知事賞など受賞多数。
2008年に重要無形文化財「蒔絵」保持者(人間国宝)認定。同年、紫綬褒章受章。
2021年旭日小綬章受章。
2024年選定保存技術「漆工品修理」保持者に認定
現在公益社団法人日本工芸会の参与を務める。
パブリックコレクションは文化庁、東京藝術大学、国立工芸館、大英博物館、
メトロポリタン美術館、V&A博物館など。